点群・ポリゴン処理
点群の半透明表示
アルモニコスでは、3Dスキャナから取得した計測点群もしくはポリゴンデータを扱うソフトウェアの研究開発を約30年継続しております。
今回は「点群が密な場合に奥の形状が認識できない」という課題に対して、点群を半透明で表示することによって解決する手法に取り組んでみました。
工場内部を測定した大規模な点群を表示するような場合、壁の点群が工場内部を隠してしまうことがあります。その際に点群を半透明で表示できると、全体の様子を把握しやすくなります。
OpenGLで点群を半透明表示する場合、一般に、画面の各ピクセルに、そこに存在する物体の視線方向における順序を考慮して、色を決定していく計算が必要になります。品質の良い画像を得るためには、注意深く実装する必要があります。
立命館大学の田中覚教授の論文「不透明粒子モデルに基づく半透明可視化とその応用」*1 および「Noise-robust transparent visualization of large-scale point clouds acquired by laser scanning」*2 では、上記のような計算をせずに半透明画像を得る手法を提示しています。この論文を参考に、点群の半透明表示を試作しました。まずは理論をご紹介します。
理論紹介
論文の理論では、描画対象の物体を「色と法線を持った粒子の集合」として考えます。それによって点群、CTスキャンのボリュームデータ、三角形メッシュ等の表面データを統一的に扱うことができます。そして、粒子が描画された時の透明度を確率的な事象の結果としてとらえます。論文では、粒子の密度と透明度の関連を確率的な論理で定式化しています。
確率的な事象としての性質を担保するために、描画対象のデータを一様にばらついた複数のグループに分割します。そして各グループを描画し、それらの結果の平均をとることで半透明表示の画像を得ます。例えば、コイン投げにおいては、試行回数が増えるほど表になる確率が理論値の0.5に近づきます。この試行回数が、今回分割したグループ数に相当します。
分割数と密度は反比例します。分割数が大きいほど、1グループ内の粒子数が小さく、すなわち粒子の密度が小さくなり、透明度が高く(=色が薄く)なります。しかし、分割数が大きいほど、確率的な事象としての質が良くなり、理論的には描画結果の品質も良くなります。
*1 田中 覚・長谷川 恭子・下久保 嘉之・金子 智典・小嶋 沙織・仲田 晋. 不透明粒子モデルに基づく半透明可視化とその応用. 計算力学講演会講演論文集. 2012, 25, F18-22. https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205858055552, (参照 2023年7月24日).
*2 Tomomasa Uchida, Kyoko Hasegawa, Liang Li, Motoaki Adachi, Hiroshi Yamaguchi, Fadjar I. Thufail, Sugeng Riyanto, Atsushi Okamoto, Satoshi Tanaka,
“Noise-robust transparent visualization of large-scale point clouds acquired by laser scanning,”
ISPRS Journal of Photogrammetry and Remote Sensing, vol. 161, pp.124-134, March 2020. DOI: 10.1016/j.isprsjprs.2020.01.004
*3 田中 覚・長谷川 恭子・下久保 嘉之・金子 智典・小嶋 沙織・仲田 晋. 不透明粒子モデルに基づく半透明可視化とその応用. 計算力学講演会講演論文集. 2012, 25, F19.
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205858055552, (参照 2023年7月24日).
試作
点群を対象として、簡易的に上記の手法で試作しました。
厳密な定式化の部分は追わず、単純に「分割した点群の描画結果を平均化する」という実装をしました。
グループ数調整
事前に点群をランダムに並べ替え、先頭から指定したグループ数に分けます。それぞれのグループを描画して画像を得ます。各画像のRGB値をピクセルごとに平均化して得られた画像を結果とします。
N調整による比較(Nはグループ数)
濃さ調整
グループ数が多くなる(Nの値が大きくなる)と、色が薄くなり、見えにくくなるので、結果のRGBの値に係数を掛けて、濃さを調整できるようにしました。
N=150において濃さを調整した結果
城正面からのビュー
奥行き方向に多数の点が重なっている部分は、Nを大きくしても透過せずに残り続けます。この効果により、建物の壁と平行になるようにビューを合わせると、エッジが強調されて見えます(右図)。
半透明描画
半透明描画は、色情報のない点群の視認性向上にも期待できます。
色情報のない点群をそのまま描画すると白く塗り潰されてしまいます(左図)が、半透明描画することで濃淡ができ、視認性が向上します(右図)。
本研究では、「PCDB:Shizuoka PointCloud DataBase」の「掛川城オープンデータ化プロジェクト」の点群データを利用しています。
一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会. “PCDB:Shizuoka PointCloud DataBase – データセット”. G空間情報センター. 2022年2月23日, https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/pcdb-shizuoka, (参照 2023年7月24日).
研究担当
AXION事業部 事業部長 野口勇
2000年、(株)アルモニコス入社。
アルモニコス製パッケージソフトのspGauge、spScanの開発に従事。
現在は受託開発を軸に、三角形メッシュ関連の仕事にも携わっている。
趣味は、読書、ハーフマラソンとトレイルランニング。写真は、奥様と河口湖に旅行に行ったときのものだそうです。
A-Pro事業部 石山健
2020年、(株)アルモニコス入社。
入社後は形状処理、画像処理、点群処理の業務に従事。
趣味は、長距離ドライブ、オフロードバイク。
愛車のアルトワークスに乗って、日本全国の温泉めぐりをするのが夢。後部座席には、車中泊セットを常備している。
※所属・肩書は記事掲載時のものであり、現在とは異なる場合があります。